風の森通信 第360号
笹鳴き
お手前をする席の左側の壁に、露地の木々の影が映ります。
光の強弱により影の濃淡が変わったり、太陽が雲に閉ざされると影がなくなったり、時間によっては影の映る場所が移動していきます。
そんな影を追っていくのも、お茶室でのひとつの楽しみ。
露地側の障子にも、木々の葉や枝が揺れている様子がはっきりと見えています。
まるで変化していく一枚の絵を見ているようです。
お稽古の時間だからこそ過ごすことのできる至福の時間なのです。
「お茶杓(ちゃしゃく)の銘(めい)は」
「笹鳴きと申します」
先輩が応えてくれました。
「笹鳴き」とは、ウグイスが冬の晴れた日などに笹の原や藪の中で鳴くのでそう呼ばれています。
俳句では冬の季語。
その声は舌打ちに似て「チッチッ」と聞えてくるのだと教えてもらいました。「ホーホケキョ」とまだきれいに鳴けない、未完成状態の鳴き声のようです。
初音(はつね)とか初鳴きともいわれるのでしょうか。
そういえば、「ウグイスの初鳴き前線」というのを聞いたことがありす。春に向かう季節の進行とともに北上してくるという、待ち遠しい前線です。
障子にウグイスの影も映ってくれるのではと期待したのですが、まだまだ北国の仙台では叶わぬ季節です。
今日の仙台は快晴であたたかく、家の庭に作った餌台にメジロが番いで毎日来てくれます。
背面は鶯色、のどは黄色そして目の色は鳥の名前のとおりです。
ウグイスを知らない人には、この鳥がウグイスなのではとよく間違えてしまほど。
餌台にりんごやみかんなどの甘い果物を置いてやると、必ず立ち寄ってくれます。
この鳥が庭に来てくれると、もう春が近いのだと思うのです。
今日のお稽古は、後炭所望、包帛紗(つつみぶくさ)そして薄茶平点前。
包帛紗は、棗(なつめ)を帛紗で包み、濃茶器の代わりとして使用する扱い。拝見の後にお茶杓は左手にそして棗は右手に持って帰ることになるのでついつい間違ってしまいそうです。
大寒はもうすぐ、風邪などひきませぬよう。
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