風の森通信 第430号
春雨庵茶会
・ 平成19年9月16日(日)午前10時30分~
・ 山形県上山市 春雨庵 春和会月釜
・ 裏千家 原田 氏
山形県上山(かみのやま)は、大徳寺一五三世沢庵宗彭禅師が紫衣(しえ)事件や武家諸法度の一つである元和法度を批判したとして、二代将軍秀忠によって配流された地。
紫衣とは朝廷から高位、高徳の僧に着用を許される紫色の法衣のこと。
紫衣事件とは、当時制定された元和法度の中に、法衣の許可については事前に幕府に計らなければならないとされ、その条項に反したとされたもの。
後水尾天皇(ごみずのおてんのう)がこの事件の責任をとる形で譲位、そして沢庵禅師は上山に流罪となりました。
上山藩主土岐頼行(ときよりゆき)が、禅師のために小庵を建て迎え入れたのです。
沢庵禅師自らがこの庵を「春雨庵(はるさめあん)」と命名。
三年のあいだ花鳥風月を愛でながら配流の身を慰められたと言われています。
この間、禅道のほか詩歌、茶道、水利や築堤の設計など、京都や江戸の文化を伝え、領民のためにも広範な知識をさずけ城下町の発展に貢献されたのです。
その後三代将軍家光は沢庵禅師に帰依し、江戸品川に東海寺を創建し沢庵禅師を住職に迎え開山。
開山後、頼行は上山の春雨庵を模して東海寺の境内に塔頭を建立し、土岐家の菩提寺とします。一部改修の際に一間の長押(なげし)と天井板を譲りうけ、昭和三十年に復元したものが現在の春雨庵です。
沢庵禅師が春雨庵で詠んだ歌が残されています。
花にぬる胡蝶の夢をさまさじとふるも音せぬ軒の春雨
浅くともよしや汲む人あらばわれにこと足る山の井の水
苔あつき草の庵のはるさめはしずくにだにもふるとしられず
上山は雪の多い地方です。
雪解けを促すように降る春雨に、少しずつ変わっていく景色を楽しんでいたのでしょうか。
山の井とは敷地内にある井戸のことで、沢庵禅師はこの水でお茶を点てられた言われ、今もその姿をみることができます。
禅師が好まれたのは白あざみ。
その季節には庵内のいたるところに咲き誇ると言われています。
春雨庵の南側にあるのが望岳軒聴雨亭(ぼうがくけんちょううてい)、春和会によって毎月釜が掛けられ、多くの参会者で終日にぎわっておりました。
・寄付
床 璃江清麗図 広西大 胡明筆
・四畳半席
床 永平寺慧玉禅師筆 幽松吹 江月照
花 槿、水引
花入 円能斎好 杵形 籠
香合 月中兎蒔絵
風は静かに松の木を揺らし、名月は皎々として川面を照らしている。
風は無心そして月もまた無心。
秋の夜の澄み切った清々しい情景の中、それぞれに参じて見よということでしょうか。
花入れの杵と香合の兎が、月の世界へと私たちをいざなってくれます。
釜 棗形 剣釜
風炉 唐銅 眉
棚 淡々斎好 瓢
水差 白磁 壷
薄器 中次 扇面秋草蒔絵
替 古染付 麒麟紋
茶杓 再住大徳 桂堂老師作 銘 太平
茶碗 青磁
替 秋草色絵
蓋置 黄交跡 夜学
建水 唐銅 貝尽紋
菓子 山づと 十五屋製
菓子器 赤絵 鉢
御茶 雲竜 森半詰
主茶碗は青磁でありましたが、柔らかい感じの色合いでたっぷりとお薄をいただくことができました。
また薄器は秋草がていねいに描かれていて、それは見事なものでした。
写真上は原田先生。
傘寿を迎えられた今も、こうして釜を掛けるのが何よりの楽しみとのこと。
和やかな雰囲気の中、お道具の一つひとつを詳しく伺うことができました。
おかげさまで思う存分出羽路の秋を楽しむことができたのです。
感謝申し上げます。
これからもますますお元気で、ご活躍されることをお祈りいたしております。
・一畳台目中板逆勝手席
床 清香院筆 和歌 小色紙
茶のみちはたどるもとおし武蔵野の
月のすむなるおくぞゆかしき
先週9月9日、仙台市太白区仙庵での市民茶会で、清香院様の扇面の和歌を拝見したばかりでした。
ここ春雨庵でも拝見できるとは予想だにしていなかったこと。
男性的な筆跡に憧れます。
花 貴船菊
花入 信楽 旅枕
香合 竹 三日月
風炉 唐銅 雲竜
水差 彩玉石
薄器 平棗 桐唐草紋 加賀塗
茶杓 前大徳朴堂老師作 銘 初雁
茶碗 赤楽 竜山窯
替 呉須
蓋置 竹 高桐院剛山老師在判
建水 曲
菓子 干 稲穂 望月せんべい
菓子器 八角 盆 会津塗
御茶 菊の薗 森半詰
席主を勤められたのは、写真中央奥の門間先生。
一畳台目中板逆勝手席は初めての席入で、一畳に六人が座るのもまた初めてのこと。
外は三十三度の夏日。
西側の窓が開け放たれ涼しい風が入ってきてくれます。
蚊遣を焚いてのお席はいい思い出でございます。
地元の先生方とお席をご一緒させてもらい、いろいろと教えていただくことができました。
この場をお借りしまして感謝申し上げます。
楽しかったお席の後は、上山市内にある「斎藤茂吉記念館」に立ち寄り、久しぶりにゆっくり館内を散策してくることができました。
昼食は山形市にある蕎麦処萬盛庵(ばんせいあん)で紅花蕎麦をいただき、その足で近くのお店で「芋煮(いもに)」を一碗食べ、帰りは山田屋の「富貴豆(ふうきまめ)」を買い求めることができました。おいしかったお茶そして山形の特産品をいっぱいご馳走になってきました。
早春のひそか雨降る日、また上山春雨庵に伺ってみたいものです。
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